先月Googleがサードパーティークッキー配信を撤回するという宣言を突然出しました。
驚かれた方も多かったのではないかと思います。
Google広告を利用している大半の企業の方は、ほっとしたというのが本当のところだと思います。
ではこれで、サードパーティークッキーは廃止されないからと言って安心していいのでしょうか。
今回のGoogleの廃止撤回から、アメリカの大手テック企業と付き合う上で、中小企業が学ぶべき教訓というものを考えてみたいと思います。
Googleのサードパーティークッキーの配信停止についてはいろいろなお客様とやり取りをしていた経緯があります。具体的な例も交えてお話ししたいと思います。
Googleサードパーティークッキーの廃止を撤回
7月22日、Googleは突然これまで行ってきたサードパーティークッキーを廃止する方針を撤回すると発表しました。
Googleのプライバシーサンドボックス担当バイスプレジデントであるアンソニー・チャベス氏が投稿した原文発表はこちらです。

廃止撤回の詳細
このブログの要点は、
・サードパーティクッキーはこれまで通りChromeに残す。
・代わりにChromeに新しい機能を追加して、ユーザーがウェブ閲覧全体に適用される情報について選択できるようにする。
・Chrome のシークレットモードに IP 保護機能を導入する
・プライバシー サンドボックスの開発は継続する。
というわけで、Chromeでサードパーティクッキーが使えなくなる、ということはなくなりました。Chromeに実装される機能や時期などの詳細については、まだ明らかにされていません。
これまで、Googleはサードパーティークッキーを廃止すると宣言し三度の延期を繰り返してきました。簡単な経緯は下の表の通りです。
日時 | 概要 |
2020年1月 | GoogleがChromeブラウザでサードパーティークッキーの廃止を発表。 |
2021年6月 | 廃止時期を2022年後半に延期。 サードパーティークッキーの代替技術であるプライバシーサンドボックスの開発遅延。広告業界からは、新技術への移行準備に十分な時間が必要だという要望。 |
2022年7月 | 廃止時期を2023年後半に再延期。 英国の競争・市場庁(CMA)との協議継続と、規制当局との調整が難航 広告業界からのプライバシーサンドボックスへのフィードバックに対応する必要性 |
2023年7月 | 廃止時期を2024年後半にさらに延期。 プライバシーサンドボックスの技術(TopicsAPIやProtectedAudience APIなど)のテストと評価に予想以上に時間がかかる。英国規制当局との調整も難航 |
2024年1月 | Chromeのユーザーの1%に対してサードパーティークッキーの利用を無効にするテストを開始。 |
2024年7月22日 | Googleがサードパーティークッキー廃止計画を撤回し、新たなプライバシーコントロール機能を導入するように方針転換 |
廃止に至った理由
4年にわたって大騒ぎしてきましたが、大山鳴動ネズミ一匹だったわけです。
かなり平たく言うと、Googleは、プライバシー保護と自社の大きな収益の柱である広告パフォーマンスとの間で板ばさみにあい、どうしようもなくなってしまったのだと思います。
ただ、Google内部では数か月前から、規制当局、議員、広告業界全体からの圧力が高まっているため、クッキー廃止には至らないだろう、と懐疑的な意見が出始めていたようです。
イギリスの規制当局と最終的に折り合いがつかなかった、広告業界というユーザーがついてこなかったという理由は当然あると思います。
ただそれは表向きの理由という気がしてなりません。
Googleという会社は、技術的に実現可能であれば、「ユーザーは後からついてくる」という姿勢でどんどん自社で技術導入を図って市場を作ってきた会社です。
プライバシーサンドボックスの技術(TopicsAPIやProtectedAudienceAPIなど)が、複数ドメインをまたぐユーザーのトラッキングという意味では、狙ったどおりのパフォーマンスが出せず、広告業界の大口ユーザーがついてこないと判断したのではないかと思います。
ベンチャー企業では方針の撤回などはよくあることですが、Googleという検索技術で世界トップの会社であっても、このようなことが起きるとは、正直驚きでした。
好意的に解釈すれば、Googleは創業20年経ってもまだ「ベンチャー」なのかもしれません。
今回の騒動から学べる教訓
Googleという検索の世界王者の方針を我々は変えることができるわけではありません。
しかし検索エンジンマーケティングを行っている会社であれば全て、Googleの方針に影響を受けざるを得ません。
そしていつの間にか、日本の企業はMicrosoft、Zoom、Salesforce等々アメリカの大手テック企業のサービスをたくさん使うようになっています。

ここでは実際の事例をもとに、中小企業が学べる教訓というものを考えてみたいと思います。
某顧客との議論
1年半程前に広告の定例打ち合わせで、Chromeではクッキーが廃止されるということを議題にあげました。
サードパーティークッキーは廃止されるので、ディスプレイ広告でのターゲティングの精度は落ちるだろう、このままディスプレイ広告を続けるべきかどうかということを議論しました。
その際決め手になったのは、検索エンジンの技術的動向よりも、お客様の置かれている業界とその競合他社の動きでした。
「そのクッキー廃止というのは、我が社だけに起きる話ではない、他のお客様にも同様に起きる話だよね」とお客様からは何度も確認されました。
お客様からすれば、競合他社が継続しているのに自社だけ引くわけにはいかないということです。
そして本当にサードパーティークッキーが廃止されるのであれば、自社だけでなく競合他社にも影響が出るだろう、その時まで継続した方が良いという判断でした。
Googleに追従しなかった
この判断は、当時のGoogleの方針に沿うものではありませんでした。
来年以降ディスプレイ広告経由の精度が落ちるかもしれないということは理解していただいた上で、広告を継続することになりました。
しかし結果的にはこの判断は吉と出ました。
今回のサードパーティークッキーの廃止が撤回されたことで、お客様の利用しているディスプレイ広告のターゲティング精度は落ちることはなくなりました。
素直にGoogleの発表に従って、ディスプレイ広告を止めていたら、過去1年間分の流入を失っていたことになります。
早くキャッチアップするだけがベストではない
技術的な変更に対しては、早め早めに手を打っておく方が良いと、ウェブやテック業界で育った人間や技術者は考えがちです。
しかし、米国大手テック企業の言うことを早くキャッチアップすることが必ずしも正解はないということは、今回の大きな学びでした。
Googleの広告だけに限らず、Microsoft、Apple等は、大きな仕様変更を繰り返しています。その度ごとに、広告代理店やウェブ業者、ネット業界やSI事業者は方針変更に振り回されています。
しかしお客様側から見ればSEOでもGoogleの広告でも、パソコンのOSであっても、どれも、新規のお客様を開拓し、商売を成り立たせるためのツールに過ぎません。
同じ業界の中で、競合またはベンチマークにしている企業がどう動くかということの方が、お客様にとっては重要です。
お客様の発想は、他社がやらないから自社もやらないという実に日本的な横並び発送で、「戦略」というところまで考えておられなかったとは思います。
ですが、米国のテック企業の新しい技術に飛びつく前に、「戦略」という大きな軸があるべきで、その大きな軸に照らした上で、米国テック企業の技術をどうやって、どこまで採り入れるのかという判断があるべきではないかと思うのです。
まとめ
では、このまま放置しておいてよいものでしょうか。
残念ながらノーです。サードパーティークッキーを使えなくなった時にどうするか、ということには、これまで通り取り組む必要があると思います。
Chromeは、近い将来、新しい機能を追加して、ユーザーが自分のプライバシーについて選択できるようにするでしょう。
どんな実装になるのか、導入時期は不明ですが、既に実装されているSafariが参考になります。
AppleのSafariでは既にサードパーティークッキーはほぼブロックされています。
Safariでサードパーティークッキーをブロックする機能を追加した以降、トラッキング可能なIDはわずか23%まで減りました。
Chromeの場合も、トラッキングできるユーザーは相当数減ると予想ができます。この時にはGoogle広告のターゲティング精度は間違いなく落ちるでしょう。
これからはマーケティングオートメーションなどを中心として、ファーストパーティークッキーを利用したユーザーデータをどう蓄積していくかということを考えていかなければいけない時代だと思います。
これはBtoBでもB2Cでも変わりませんし、大企業でも中小企業でも同じだと思います。
Googleのことですから、新しく広告メニューをリリースしてくると思います。
が、新しい技術やサービスに振り回されるのではなく、自社の業界特性を踏まえて、どうやって新規の顧客を獲得するのかという作戦を、それぞれの業界、それぞれの企業で独自に考えてゆく時期にきています。
[参考資料]Ad world is relieved but skeptical about Google’s decision to keep cookies in Chrome