【2025年4月】情報通信プラットフォーム対処法と企業アカウント運用者が注意すべきポイント

「情報通信プラットフォーム対処法」(通称「情プラ法」)が前倒して施行されました。

インターネット上で他人の権利を侵害する情報(誹謗中傷、プライバシー侵害、違法行為の勧誘など)を制限するための法律です。

では、この法律は、SNSの法人アカウント運営者にどのような影響があるのでしょうか。

本記事では、法人を代表してアカウントを運用する立場の方がどのようなことに注意をするべきかについてまとめています。

備えあれば憂いなしなので最後まで読んでいただければ幸いです。

情報通信プラットフォーム対処(通称「情プラ法」)とは

2024年の通常国会で、従来のプロバイダ責任制限法は「情報流通プラットフォーム対処法」(以下「情プラ法」と略)へ改正、4月1日施行されました。元々は2024年の5月から施行されるはずだったものを前倒して実施しています。

大きな改正ポイント

従来の「プロバイダ責任制限法」は、問題の投稿をした利用者に関する情報の開示を求めるまでしかできませんでした。被害を受けた側が投稿を削除させるには、サービス事業者との個別交渉や、時間と費用のかかる裁判を経て被害者側が権利侵害を立証する必要がありました。

しかし、今回の法改正では、SNSや匿名掲示板などの大規模特定電気通信役務提供者に対し、以下の義務が新たに課されることになりました。

  1. 削除申出への迅速な対応 
    被害者からの削除要請に対し、一定期間内(施行規則では7日以内)に対応することが求められます。
  2. 削除基準の策定・公表  
    削除対応の基準を明確に定め、公表することが義務付けられています。
  3. 対応状況の透明化    
    削除対応の実施状況を公表し、透明性を確保することが求められます。

さらに、義務に違反した場合の罰則も強化されました。従来の「プロバイダ責任制限法」には、明確な罰則規定はありませんでした。対応を怠っても法的な制裁を直接科す仕組みがなく、プロバイダ側の「自主的対応」に頼っていたのです。

情プラ法では、罰則規定が新たに設けられました。法律の義務違反があった場合、総務大臣から改善命令が出され、それでもなお従わない場合は最大1億円の罰金を科すことができると法律に定められました。

近年、インターネット上の誹謗中傷や権利侵害が急に増えているため、被害者救済の迅速化とプラットフォーム運営の透明性向上を狙っています。

法律の対象者

このように情プラ法は、主に「大規模特定電気通信役務提供者を対象とした法律です。

情プラ法でいう「指定事業者(=大規模特定電気通信役務提供者)」に該当するかどうかは、一定の「規模」と「影響力」の基準を満たすかどうかで総務省が判断します。

具体的には、日本国内における月間アクティブユーザー(MAU)が500万人以上であり、そのサービスが社会全体の「言論空間」「世論形成」に与える影響が大きいプラットフォームを指定事業者と認定すると思われます。

この法律の「指定事業者」に指定されるとプラットフォーム側には様々な義務が生じます。被害申告の窓口や投稿の削除基準を事業者が明示し、被害者らの訴えに基づいて削除の必要性を迅速に判断しなければならなくなります。

しかも、法律に違反した企業には最大で1億円の罰金が科されることもあり得ます。これは日本の法律ですが、海外事業者に対しては言語の壁で申し出を諦める利用者が多いことから、日本語で申請できる窓口を設けることも義務としています。

このように、情プラ法の目的は、誤情報・誹謗中傷・なりすましなどの有害情報への迅速な対応や、被害者救済の迅速化です。

ですから、ユーザー数が500万人未満で、クローズドなチャットアプリ(Slack、Teamsなど)、会員制で非公開の情報共有サービス、小規模コミュニティを運営している一般の法人や企業には直接関係はなさそうに見えます。

法人のSNS運用者として注意すべきポイント

では法人でのSNS運用アカウント担当者はどのようなことに注意すれば良いのでしょうか。

情プラ法の背景には、SNS上に「誤情報」や「フェイク」が溢れていることへの対策強化があります。

仮に法人アカウントが発信した情報が、誤情報が含まれていて、それが多くの人に拡散されてしまうと、プラットフォーム運営者から「警告」が来たり「削除」依頼が来る可能性があります。

ですので以下のような注意が必要です。

  1. 誤情報の発信防止
    情報の一次ソースを確認し、正確性を担保した発信を心がける。
  2. 中傷・差別表現の回避
    他者を傷つける投稿や、過激な表現・煽り文句に注意。

投稿を行う側のアカウントも、投稿の拡散について責任を持つ必要がある、ということです。

どのプラットフォームを使うにせよ、それぞれのSNSのガイドラインやコンテンツポリシーを事前に確認しておく必要はあるでしょう。

法人のアカウントといえども、被害者・加害者になる可能性があることを意識して運用することが重要です。

自社が誹謗中傷・不当投稿を受けたときの対応

では、自社がいわれもない誹謗中傷にあったり、自社製品への不当な書き込み等があった場合にはどうすればよいでしょうか。

どんなに注意してアカウントを運用していたとしても、他人のアカウントの書き込みを未然に防ぐことはできません。

しかし、情プラ法は、被害者が迅速に救済を求められるようにするための法律でもあります。

企業や製品が誹謗中傷・風評被害を受けたときの「通報・削除・発信者情報の開示請求」はこれまでよりもスムーズになります。

  1. 初動対応
    SNSの炎上防止は8割が初動対応にかかっています。慌てずに、投稿のスクリーンショットとURLを保存し、通報機能で報告しましょう。
  2. 削除申請
    プラットフォームの通報フォームや法人窓口へ連絡します。

このような対応をとっても、投稿が削除されない場合、弁護士を通じてプラットフォーム運営企業に発信者情報の開示を請求することはできます。

法人アカウントを運用するにあたっては、誹謗中傷を受けた場合や、投稿が炎上してしまった場合の対応フローを事前に社内マニュアルとして整備しておくことはとても大切です。

投稿が削除される前に記録を取り、通報や社内連絡体制、広報対応、法的措置の判断に至るまでをカバーする体制を整えておくことが大切です。

まとめ

SNSアカウントの運営というのは、最終的にはアカウントを運営する側の自覚によるところが大きいです。正確かつ誠実な情報発信を心がけることに尽きると思います。

しかし、どんなに正確な情報発信を心がけても、アカウントを運営するということは、自分が意図せず加害者になることもあるし、自社が被害者になることもあり得るわけです。そういう意味で、情プラ法は、一般の企業アカウント運営の見方になってくれる法律と言えるでしょう。

今後は、情プラ法の指定事業者であれば、情プラ法の義務を負うことになります。情報発信をどのプラットフォームで行うか、ということは大事な選択になります。

SNSの通報フォームや法人窓口、削除基準を公開しているか、削除の実施状況等を公表しているか等を確認しておきましょう。

[参考資料]【2025年4月施行】情報流通プラットフォーム対処法とは?プロバイダ責任制限法からの改正内容を分かりやすく解説!