マーケティングファネルでは限界?B2B企業が押さえるべきメッシーミドル(Messy Middle)とは

B2Bマーケティングにおいて、長く重視されてきた考え方に「マーケティングファネル」があります。

顧客を「認知→検討→購入」という逆三角形のプロセスへ直線的に流し込むこのモデルは、管理のしやすさから多くの現場で採用されてきました。

しかし、デジタル化が加速した現在、顧客の行動はこの図式通りには進みません。

「Webサイトから資料請求があったのに、その後半年間音沙汰がない」こんなお客様は多いのではないでしょうか。

こうした現象が起きるのは、顧客がファネルを一段ずつ降りているのではなく、「メッシーミドル(Messy Middle:混乱した中間地点)」と呼ばれる長い検討フェーズの中にとどまっているからです。

本記事では、ブラックボックス化していた「検討フェーズ」の正体を解明します。

リソースの限られた1人・2人体制のマーケティング担当者が、この「混乱」を味方につけて成果を最大化するための具体的なアプローチを解説します。

1. メッシーミドル(Messy Middle)の背景と概念:従来のファネルモデルとの決別

メッシーミドルという概念は、2020年にGoogleの消費者インサイトチームが行動科学の専門家と共同で行った実証研究から誕生しました。

彼らは数兆件に及ぶ膨大な検索データと大規模な購買実験を分析し、「消費者が商品を知ってから購入するまでの間(ミドル)」が、かつてないほど「混乱(メッシー)」していることを突き止めたのです。

従来のファネルモデルとの決別:線形から「ループ」へ

長年採用されてきた「マーケティングファネル」は、認知から購入までを一直線(線形)に進むものとして定義してきました。しかし、メッシーミドルの世界では、意思決定は動的で、何層にも重なる複雑なタッチポイントの網の目のようになっています。

このモデルの最大の特徴は、顧客が以下の2つの心理モードを何度も行き来(ループ)することにあります。

  • 「探索(Exploration)」:選択肢を広げ、情報を収集する拡大のフェーズ。
  • 「評価(Evaluation)」:集めた情報を吟味し、選択肢を絞り込む縮小のフェーズ。

顧客は、新しい情報を得ては評価し、また新たな疑問が湧けば探索に戻るという「戻り」を繰り返します。

情報を選択する顧客側は、オンライン上の膨大な選択肢と無限の情報に対処するために、心理学的に深く刻み込まれた以下の6つのバイアスを、意思決定のショートカットとして無意識に活用しています。

バイアス名 概要・説明 顧客への影響
カテゴリー・ヒューリスティック 製品の主要な仕様に関する短い説明を提示すること。 複雑な情報を整理し、購入の意思決定を簡略化させる。
「今」の力
(Power of now)
製品を手に入れるまでの待ち時間が短いほど魅力的になる心理。 待ち時間が長くなるほど、その提案(プロポジション)は弱まる。
社会的証明
(Social proof)
他者からの推奨やレビューに影響される傾向。 第三者の肯定的な評価が、非常に強い説得力を持つ。
希少性のバイアス 在庫や利用可能性が低くなるほど、その製品がより欲しくなる心理。 「手に入りにくい」と感じることで、製品の望ましさが高まる。
権威バイアス 専門家や信頼できる情報源からの意見に左右されること。 エキスパートによる裏付けが、選択の自信につながる。
無料の力
(Power of free)
購入時に無料ギフトが付いてくることで動機付けられること。 特典が製品と無関係であっても、強力な購入動機となる。

これらはいずれも、マーケティングにおける心理学的アプローチと高い整合性を持っています。

なぜ、従来のファネルモデルは機能しないのか

左側は典型的なマーケティングファネルの一例です。購買ファネルは、顧客が商品やサービスを認知してから、購入するまでの心理変化や行動の段階を表すものとして長く用いられてきました。「AIDMA」モデルとかダブルファネルとか色々ありますがここでは説明は割愛します。

この基本のファネルが考えられた時代には、ユーザーが購入に至るまでの情報に接する接点は現在に比べてごく限られたものでした。

しかし、デジタル時代において、ユーザーは即座に処理しきれない情報と選択肢にアクセスできるようになりました。この「情報の爆発」により、かつての一方通行な顧客の選択のプロセスは複雑になり、期間も長くなりました。

従来型ファネルとMessyMiddle

マーケターや企業側が「今は検討フェーズだから、次はクロージングだ」と考えていても、顧客は、Webサイトの些細な記載や口コミの一文をきっかけに、瞬時に「探索」の入り口まで引き返してしまいます。これが、従来の興味・関心から比較・検討の段階が長く伸びて、なかなか購入に結びつかないという理由です。

この非線形な動きを理解しない限り、いくらファネルにリードを流し込んでも、成約という出口にはたどり着けません。

2. なぜ今、このメッシーミドル(Messy Middle)モデルが注目されるのか

Googleの研究では、顧客の行動が「最高(Best)」を求める方向へとシフトしたことが、その背景にあると説明されています。簡単に言えば「もっと良いものがあるかもしれない」という心理です。

かつてインターネットは「安い(Cheap)」ものを探すための価格比較ツールでした。しかし、現在では「あらゆるものを比較し、納得できる答えを見つけるためのツール」へと進化しています。

Googleのデータによれば、世界的に「安い」という言葉よりも「最高」という言葉の検索関心が大幅に上回っています。

これは、顧客が単なる価格の安さではなく、自分の課題を最も的確に解決できる「最適な選択肢」を求めて、メッシーミドルの中で探索と評価を繰り返していることを示しています。

日本のマーケターが直視すべき「消費者の疲弊」

情報の選択肢が増えることは、必ずしも顧客にとって幸福ではありません。

調査によると、日本の消費者の66%が「情報の多さに圧倒されている」と感じています。

溢れる広告や比較記事の中から「正解」を見つけ出す作業は、かなりな負担になっていると推定できます。

買い物の際、情報の多さに圧倒されることがある - 日本66%
日本の消費者の66%が「情報の多さに圧倒されている」と感じている

出典:Google「買い物で​「失敗したくない」が​「より​良い​商品も​探したい」​生活者たち:​「”あなた​”に​意味ある​情報」と​AIの​関係」
Google/Ipsos,TheRelevanceFactor,Mar2024,n=18,003,onlineshoppers18+US,UK,AU,BR,CA,FR,DE,IN,IT,JP,MX,NL,SG,KR,ES,TW,TH,VN

「失敗したくない」と「探したい」の矛盾

しかし同時に、現代特有の矛盾した心理が働いています。

  • 失敗を避けるために、慣れ親しんだブランドや確実なものを選びたい。

しかし

  • もっと良い解決策があるのではないかと期待して、探索を止められない。

どのような業界の製品にもこのループが当てはまるのではないかと思います。B2Bマーケティングでも、同様の傾向は見られるのではないかと思います。

このループの長期化が、お客様の「検討期間の長期化」の正体です。

マーケティング担当者は、顧客がこの矛盾に苦しんでいることを理解し、彼らが「探索」から「評価」を繰り返すことから「確信」へと変えるために手を貸さなくてはなりません。

3. B2Bマーケティングでも役立つポイント

B2Bの購買行動は以前から「メッシーミドル」的な性質が存在していたと考えられます。

検討から最終購入に至るまでの期間が長いB2Bマーケティングでは、検討中に社会的状況が変わることも珍しくありません。検討期間が長ければ、顧客が接する情報も増えます。

複数の決裁者が関わり、業界フォーラム、専門家のレビュー、教育的コンテンツなど、多岐にわたるタッチポイントを経由するからです。

これまでは管理上の都合で「ファネル」に無理やり当てはめてきたに過ぎません。

従来型購入ファネルとメッシーミドルの比較図
従来型購入ファネルとメッシーミドルの比較(出典:Google, “Decoding Decisions Making sense of the messy middle”)

現実の見込み客は、資料請求(リード化)した後、長期間にわたって「この課題は本当にこの製品で解決するのか?」「他社事例は?」「コストパフォーマンスの根拠は?」と、探索と評価のループを繰り返しています。

このモデルを採用することで、顧客が現在「情報を広げている(探索)」のか「絞り込んでいる(評価)」のかを、実態に即して捉えられるようになります。

「確信」を生む関連性の高い情報が、成約を2.1倍にする

では探索と評価を繰り返す段階から、顧客に確信を持ってもらうにはどうすれば良いのでしょうか。

ここでGoogleの行った興味深い実験データがあります。

最も好きなブランドがマス向けの一般的な情報しか提示していないのに対して、2番目に好きなブランドが、事前アンケートに基づいたその人が興味を持ちそうな商品の具体的な特徴、つまり「”あなた”に意味ある情報」を提示した場合、後者を選ぶ可能性が1.5倍〜2.5倍高くなるという結果が出たのです。

関連性の高い情報を提示した場合のブランド選択率の変化
「”あなた”に意味ある情報」を提示することで、2番目に好きなブランドの選択率が大幅に向上

(出典:Google「出典:Google「買い物で「失敗したくない」が「より良い商品も探したい」生活者たち:「”あなた”に意味ある情報」とAIの関係」Google/TheBehaviouralArchitects,1PdataintheMessyMiddle,May2024,n=5,000,onlineshoppers18+,Japan)

テストデータはB2Cに関するものですが、企業が生活者に対して「”あなた”に意味ある情報」を伝えられれば、二番目に想起されるブランドであっても、有力な選択肢になる可能性を高められることを示唆しています。

B2Bマーケティングにおいても、これは「汎用的な機能紹介」ではなく、「ターゲット企業の業界・規模・固有の課題に特化した情報提供」がいかに大切かを強く示しています。

行動科学による「背中押し」:B2Bでも有効なバイアス

ではB2Bマーケティングにおいて、メッシーミドルに特有な6つのバイアスがどこまで有効なのでしょうか。

B2Bは論理的な世界ですが、決定を下すのは人間です。したがって、行動科学の視点を取り入れることは、評価段階における重要な「安心材料」となります。

「今」の力(Power of now):今すぐできるデモや試供品の提供

FAQや詳細コンテンツを整備し、評価中に生じた疑問をその場で解消できるようにすることで、顧客が再び「探索フェーズ」に戻るのを防げます。

社会的証明(Social Proof):同業他社や有名企業における導入事例

権威バイアス(Authority Bias):業界エキスパートや専門家による推奨・解説

多忙な担当者が全ての顧客に個別対応するのは困難です。だからこそ、これらの要素をホワイトペーパーや事例集などのコンテンツにあらかじめ組み込み、メッシーミドルの渦中にいる顧客に効果的に訴求できるようにしておくことが重要です。

製品による差別化が難しい場合は?

例えば、代理店を通じて他社でも同じ製品を扱っている場合、自社から購入してもらうためにはどうすればよいでしょうか。

その鍵は、製品そのものの差ではなく、検討段階(メッシーミドル)における情報提供の質と、心理的バイアスの活用にあります。

・「貴社に関連性の高い情報」による差別化

単なる製品カタログの転載ではなく、「貴社の業界特有の課題をこう解決する」といった、顧客の状況に即したパーソナライズ情報を提示します。

•「今」の力(Power of now)

「問い合わせへの即時回答」「即日デモ実施」「最短の納期」など、対応スピードを訴求することで提案の魅力を強化します。

•権威バイアス(Authority bias)

代理店自体が、その分野の「専門家」や「信頼できるアドバイザー」「製品の評価者」としての地位を確立することが重要です。

専門的知見に基づいたホワイトペーパーや認定資格の保有は強力な根拠となり、さらに「同業他社の導入実績」や「顧客の声」は、リスクを回避したいB2B顧客に対する説得力を高めます。

•無料の力(Power of free):製品は有料でも、導入支援、初期設定、または独自の教育ワークショップを「無料特典」として付加することで、強力な動機付けになります。

顧客はの中で、さまざまな選択肢を比較しながら「評価」を行います。この段階で「自社から買う理由」を論理的に整理して提示することがポイントです。

比較表の提供は、代表的な施策です。製品間の比較だけでなく、「他代理店とのサポート体制の比較」や「自社独自の運用支援パッケージの優位性」なども可視化することで、判断材料をより明確に示すことができます。

また、評価フェーズで顧客が抱きがちな「導入後のトラブル対応はどうなるのか?」といった不安を先回りして答える詳細なFAQを用意し、安心感を醸成することも非常に有効です。

さらに顧客がまだ解決策を模索している探索フェーズの段階から、有益な情報の発信者として接触しておくことも重要です。

業界フォーラム、ブログ、動画などを通じて、「製品の売り手」ではなく「課題解決のヒントをくれる存在」として認識されるよう発信しておく戦略は、B2Bにおいても効果的です。

代理店における差別化の本質は、製品そのものではなく、「顧客が最善の選択をしたと確信できるための情報」をいかに提供できるかにあります。

単に顧客の選択を助けるだけで終わらせず、購入後も「頼れる専門家」として関係を維持し続けることが、より確実な成果につながります。

「独自の導入実績」「業界の中での専門家」「信頼できるパートナーとしての存在感」的な立ち位置を確保することが、の競争優位を左右する重要なポイントとなるでしょう。

まとめ:メッシーミドル(Messy Middle)に対応するには

マーケティングの真の目的は、顧客を検討と評価のループから強引に引きずり出すことではありません。

メッシーミドルの中で顧客が必要とする「情報」と「確信」を、最適なタイミングで提供し続けることです。

Googleが提唱する「成功のための4つの行動原則」を、B2Bの現場に置き換えると次のようになります。

1.存在感の確保(Show Up)

顧客が「探索」を開始した瞬間に、あなたのブランドが視界に入っていなければなりません。検索広告だけでなく、ターゲットが参照する業界メディア、SNS、あるいはQ&Aサイトなど、顧客が「答え」を探す場所に戦略的に露出を確保しましょう。

2.行動科学の適用(Apply Behavioral Science)

認知心理学に基づいたアプローチで、自社の提案をより魅力的かつ信頼できるものとして提示します。

  • 特典の提示:「期間限定の無料診断」などで、評価フェーズを加速させる。
  • 専門性の強調:開発者や専門コンサルタントによる解説記事で、権威性を示す。

3.プロセスの短縮(Close the Gap)

「トリガー(きっかけ)」から「購入」までの時間をできるだけ短縮し、顧客が競合他社の情報に触れる隙を減らします。例えば、資料請求後の自動返信メールで「よくある懸念点への回答集」を即座に送るなど、顧客が自力で「評価」を完了できる仕組みを作ることが重要です。

4.組織の壁の撤廃(Built Flexible Teams)

B2Bでは、マーケティングが獲得したリードを営業がフォローする流れが一般的です。しかし、メッシーミドルの世界では、顧客は商談中でさえ「再探索」を行います。マーケと営業が分断されるのではなく、一貫したメッセージとコンテンツで顧客の購買プロセスを支える柔軟な体制を構築し、両部門間で情報共有を密にすることが不可欠です。

さて、ここで質問です。

あなたの会社のWebサイトやコンテンツは、顧客の「迷い(探索と評価)」を解決する助けになっていますか?それとも、一方的に「売りたい情報」を押し付けて、顧客をさらなる混乱へ追いやってはいませんか。

変化の激しいデジタルマーケティングの世界で、少人数の担当者が成果を出し続けるには、常に最新のフレームワークと実践知のアップデートが欠かせません。

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